ジェミーとの別れ。バンコクへ
とある日の夜、わたしはジェミーに出発することを伝えた。
「明後日にパタヤを出ようと思ってる」
その時、ジェミーはあからさまに大きなため息をついた。
「わかった、いつ戻ってくるんだ?」
「もう戻らないよ。私はただのバックパッカーだし、これからマレーシアとインドに行って、西に進むよ。」
「やめといたほうがいい。インドは女には危険だし、ヨーロッパではテロが起こる可能性がある。」
「うん、わかってる。」
「おれは何のために毎日金を払ってるんだ?一夜の為じゃない。ずっと長くいたいからだ。君が旅に出るのは知ってはいるが、戻ってくると思ってる。その時は金は無しだ。」
「もし帰ってきたら、それでいいよ。とにかく明後日にもう出てもいい?」
「わかった。戻ってくると信じてるよ」
意外とあっさり済んだ。
ジェミーは本当に良い人だった。一ヵ月以上一緒に暮らしているというのに、私への接し方に変化は全くなかった。普通の人であれば、日が経つにつれて態度は傲慢になるはずだ。
私にしてみても、最低限の仕事モードで気遣って、不快にさせないよう努力していたというのもあるかもしれないが。
ジェミーとは出会い方が良くなかったと本当に思う。
普通に旅をしている中で、宿での出会いだったりとか、そんな偶然の出会いだったら、ジェミーとは本質的に仲良くなれたのかもしれない。
ジェミーと私は傍からみたら仲の良いナイスなカップルなのだろう。それに関してはジェミーも同様にそう思っていたと思う。
しかし私の本心では、上辺を全力で取り繕って接していたので、根本的には全く仲良くもないし、当然私は彼に恋愛感情も友情もない。ただの親切な客、というのが率直な印象だ。
もっと違うシチュエーションだったらよかったんだ。
客対応の私ではなく、メンドクサイ私の性格や本性が表れても、ジェミーなら寛大な心で受け止めていたことだろう。
まあ、もうどうでもいいけど。
そして、パタヤ出発当日。
ジェミーはバイクでバスターミナルまで送ってくれた。
途中によったコンビニには、熊本地震の募金箱があった。かなり沢山の募金が集まっているのを見て、なんだか嬉しくなった。そうやって喜んでいる私だったが、熊本地震の募金をまだしていなかったことを思い出し、いくらかここにつっこんだ。
良いことをすると、少しいい気分になる。
「イングランドもいくんだろ?行く日にちが分かったら教えてよ。」
「分かった。イギリスにはいくから、そのときは連絡するね。」
「わかった。信じてるよ。」
こうして、アツいキスをして別れた。
ジェミー的には、割と壮大なお別れだったのだろうが、私的にはそうでもない。
彼は住居と大量のバーツ札と少しの英語力を私にくれた。
お世話になったというのに、本当にあっけないお別れだった。
心の底では、やっと次の街に進めるぞ、という高揚感とやっとここから出れるぞという安心感があった。
そう、ここから出ることが、私にとって重要なのだ。
バスに乗ったとき、目の前が明るくなった気がした。
ジェミーとはもう一生会うことはないだろう。イギリスへ行こうとも、彼に連絡をすることは絶対にないだろう。
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